椅子からデジタルサービスまで。非デザイナーのコンサルタントが、手を動かして物を作ることで得た学びーー外資系コンサルタント 朝山 絵美さん

「自分の手で何かタンジブルなもの(実体のあるもの)を作らないと本質にたどり着けないかもしれない」

外資系コンサルティングファームで活躍しながら、武蔵野美術大学大学院で博士号を取得。さらに、MoDにて学びを深める──。 異色の経歴を持つ朝山 絵美さん。
そのキャリアの根底には、「仕事はもっと人間らしくあるべきではないか」という強い問題意識がありました。 工学の世界からビジネスの最前線へ、そしてアートとデザインの探求へ。彼女を突き動かし続けたものとは何か。なぜ彼女は「手で物をつくること」に、その答えを見出したのか。その思考の軌跡を辿ります。

朝山 絵美 Emi Asayama
工学修士ならびに造形構想学修士・博士(Ph.D. of Creative Thinking for Social innovation)。外資系コンサルティングファームにてマネジング・ディレクターを務める。 同志社大学大学院工学研究科知識工学専攻(現:理工学研究科インテリジェント情報工学専攻)の修士課程を修了。同専攻にて、オフィスで働く人々にとってのより良い環境の研究と人工知能を活用した環境開発と提供を行う。その後、カナダにてCo-Active® Training Institute(CTI)主催のコーアクティブ・コーチングのコアコースにてコーチングを修学する。その後、同コンサルティングファームへ入社。MoD第二期生。


「機械より人間と話す方が好き」と気がついた就活生時代

ーー朝山さんは元々、工学の大学院でエンジニアリングを学ばれていたそうですね。そこから今のキャリアに至るまで、どのような経緯があったのですか?

はい、少し謎ですよね。時系列でお話ししますと、大学院では人工知能を使ってオフィスの環境を制御する、といった研究をしていました。いわゆるプログラミングなどを行う研究室です。
研究を進める中で、開発したシステムを様々な企業に導入するプロジェクトにも参加させていただきました。研究室にこもるだけでなく、多くの企業の社員の方々と話す機会に恵まれたのですが、そこで「私は機械と話すより、人間と話す方が好きだな」と気づいたんです。機械は言うことを聞いてくれますが、そういうことではなくて。やはり、いろんな人と対話し、人間と向き合う仕事がしたいと思いました。

また、就職活動中にプロのコーチの方と話す機会があり、問いを通じて自分のやりたいことや貢献したいことが引き出されていく感覚に感銘を受けました。その経験もあって、私もリーダーの方々に問いを投げかけ、その人の夢の実現を応援するような存在になりたいと考えるようになったんです。それが、私のキャリアの原点ですね。

ビジネスの現場で感じた「人間らしさ」の欠如への疑問

ーーコンサルタントとして働く中で「仕事が人間らしくない」と感じるようになったとのことですが、具体的にはどういうことだったのでしょうか?

外資系コンサルティングファームに入社後、システム関連の仕事を経て、より経営に近い立場でリーダーシップに関わるため戦略グループに移りました。そこで3年ほど楽しく仕事をする中で、ある種の違和感を抱くようになったんです。「仕事って、人間らしさを失うものなのかな」と。

これには二つの側面があります。一つは、多くの企業が同じようなビジネスを志向し、個性を失っていくように見えたことです。競合を分析し、ベンチマークして戦略を描くことが主流になることで、本来はそれぞれ人格があるはずの企業が、だんだん同じような顔つきになっていく。データに基づいた最適解を追い求めると、皆が同じ戦略に行き着いてしまうことに疑問を持つようになりました。
もう一つは、より個人的な感覚です。プライベートでは家族や友人を大切にする優しい人たちが、仕事の時間になった途端にパリッとして感情を脇に置き、論理だけで人を説得しようとする。もちろんそれが必要な場面もありますが、この状態が続くと、働く一人ひとりが持つべき好奇心や熱意のような大事なものが失われてしまうのではないかと危惧しました。
この二つの感覚が、私の中で「人間らしく働ける社会をつくりたい」という思いにつながっていったのです。

答えは「クリエイティビティ」にあるという直感

ーーその課題感から、なぜアートやデザインの世界に活路を見出したのですか?

「人間らしさ」の核となる好奇心や熱意など、ワクワクする気持ちを仕事に取り戻すには、直感的に「クリエイティビティ」をもっと入れるべきだと感じたんです。なぜそう結びついたのか、当時は明確な論理があったわけではありません。ただ、アイデアというのは、やらされ仕事から生まれるものではなく、知りたいという好奇心があって初めて生まれるものですよね。クリエイティビティは、私の考える「人間らしさ」の中核にあるのではないかと思っていました。
そんなとき、デザイナーの佐藤可士和さんの本に出会いました。彼は本の中で自らを「企業の医者」だと語っています。実は、コンサルタントも「企業のお医者さん」とよく言われることもあり、「立場は同じなのに、アプローチが全く違う!」と衝撃を受けました。彼は、視覚的な表現、つまりデザインで問題を解決する。この方法があるのかと知り、私もクライアントの夢やビジョンを文字ではなく、絵で描いてみるような試みをしていました。

自分の直感を忘れないよう、当時の朝山さんがクレヨンで画用紙に描いたもの

その後、会社でデザイン思考を導入する流れが生まれ、私は日本オフィスにおけるリード役を任せていただきました。アイルランドやオーストラリアに足を運びデザインファームのプロから学び、日本でデザイン思考を広める活動に奔走したのですが、大きな壁にぶつかりました。「今までのやり方と何が違うの?」「デザインで本当に企業価値は上がるの?」といった問いに、うまく答えることができなかったのです。デザインを伝える側の私自身の理解と言語化が、圧倒的に足りていないのだと痛感しました。

「なぜ、椅子を作るのか」 5年間かけて美しい椅子をつくる

ーーデザイン思考を広める中での壁が、武蔵野美術大学大学院への進学につながったのですね。大学院ではどのような学びがあったのですか?

はい、その通りです。伝えるための覚悟と理解が足りないと感じ、学び直しを決意しました。当初は、デザインの理論を学術的に学び、知識をつけようと考えていたんです。しかし、入学して5日後にはその考えが変わりました。周りの学生が当たり前のように物を作っている美大の空気に触れ、「自分の手で何かタンジブルな(実体のある)ものを作らないと、本質にはたどり着けないかもしれない」と気づいたのです。そして「卒業までに椅子を作ります」と宣言しました。

ただ、修士課程の2年間で椅子は作ったものの、卒業制作展の時に「これじゃない」と感じました。目標が「椅子というものを作ること」になっていて、「造形的に美しい椅子を作ること」を目指していなかったと気がついたんです。
というのも、私の展示ブースにある論文や理論を見てくれる人はたくさんいたのですが、作った椅子は見てくれる人があまりいなかったのです。人の心に刺さるものを作れなかったのは、造形的な美しさを追求していなかったからだと思います。
そこで、美しい椅子を作りきるまでやり抜けば、デザインの本質を理解できるのではないか、私が探していたものが見つかるはずだと信じ、博士課程に進学することにしました。まさか私が博士課程に進学するとは思いもしませんでしたが、論文のためではなく、ただ「美しい椅子を作れる自分」に出会うために、さらに3年間、合計5年間を大学院で過ごしたのです。

更なる学びを求めてMoDへ

ーー博士課程を経て、MoDに参加いただいたのはどうしてでしょうか?

今の時代、ビジネスの現場ではデジタルサービスを作ることが多いですよね。私は椅子のような三次元のものづくりは大学院を通して学びましたが、デジタルプロダクトを作った経験はありませんでした。
そこで、実際にデジタルプロダクトの作り方をYouTubeや本などを活用して学び、ポートフォリオサイトを作ってみましたが、アイデアとそれを具現化するモノの間には大きな隔たりがあることを感じました。この間を埋めることをすべてデザイナーの方に任せがちでしたが、本来はビジネスリーダー自身がこのギャップを埋めようと努め、考え抜くほど、真のユーザ目線でのモノづくりに携われるビジネスリーダーになれるのだろうと感じることになりました。

この経験を経て、デジタルプロダクトのデザインを学びたいと思っていたときにMoDに出会いました。MoDを選んだのは、武蔵美の理事長が遠藤さんについてよく話していたからです。とても素敵な方だと聞いていて、どこかでお会いしたいと思っていました。また、Youtubeで遠藤さんの講義を拝聴したところ、ちゃんとした理論をもってデザインを説明してくれていると感じて、この方から学びたいと思いました。
また、卒業制作があったことも理由の一つでした。卒業制作は好きなテーマでやれると聞き、元々自分自身で取り組んでいたプロジェクトお尻叩きとしてMoDを活用できるのではないかと考えました。

MoDでの卒業制作の過程 9回作り直したデザインイメージ(Vol.9)

MoDで制作した新しい教育サービス。OGPのデザイン

※朝山さんがMoDにご興味を持ったきっかけは、以下noteにもまとめてあります
https://note.com/future_creator/n/n5d39b3e862fd

手を動かすことで、新しいアイディアが生まれる

ーー大学院やMoDでご自身で手を動かし、アイデアを形にする経験は、どのような変化をもたらしましたか?

アナログの椅子作りにせよ、デジタルのサービス開発にせよ、アイデアは手を動かさない限り改善されていかない、ということを実体験として学びました。頭の中やノートの上だけで考えていてもダメで、現実の世界に生み出す過程で手を動かすからこそ、新しいアイデアが降りてきたり、大事なポイントが見えてきたりする。この一連のプロセスを自分で全て経験したからこそ、クリエイティビティとはなにかを体感し、それを人に伝えられる言葉が生まれたのだと思います。ーー朝山さんはすでにあらゆる挑戦をされていますが、これまでの学びを経て、今後さらにどのようなことに挑戦していきたいのですか?大きく二つあります。一つは普及活動です。これまで武蔵美大学院までの学びは前著『ビジネスで成功している人は芸術を学んでいるーMFA入門』にまとめてお届けしてきました。その後にまた多くの経験を重ね、新たな気づきを得たので、それをまた文書にして来年の春ごろに皆さんにシェアしていきたいと思います。ただ、それを読むだけでは体得できないことも多いので、読んだ方が実際に体験できるワークショップも開いていきたいと思っています。実はこの目標を叶えるにあたり、自分に足りないパーツを埋めるためにデザインスクールMoDで学ぶ必要があった、という経緯もあります。

もう一つは教育です。これからビジネスの世界に出ていく子供たちのための学びと、同時に、それを取り巻く親や先生といった大人たちの学び直しをセットでやっていきたいです。新しい時代に合う教育を提供するには、教える側も学び続ける必要があると考えています。今回、私が数年間に渡り学び直ししたこと自体が、これからの時代の教育の根底になるのではないかと思っていますので、ぜひ次世代のためにもチャレンジしていきたいですね!

ビジネスリーダーの方こそ、手を動かしてデザインを学んで欲しい

ーー最後に、どのような方にMoDはおすすめでしょうか?

リーダーシップを握ることが多い立場にある方、非デザイナーのビジネスリーダーの方こそMoDのような場を活用し、手を動かしてデザインを学んで欲しいです。そういう方々こそ、会社の意思決定を行う立場にあることが多く、そういった立場の方が自ら手を動かして学ぶことで、組織やチームを変えていけると思います。
デザインとは縁がなかった、ビジネスの世界にいた私自身がそうであったように、きっと新しい視点が得られるはずです。

前へ
前へ

物語を創り続けるために、創造性を養う土台を学ぶ。ーーエンジニア・高橋 純一さん

次へ
次へ

「『プロダクトエンジニア』としてのキャリアを体現するために」AI時代を見据え、組織づくりと人材育成に挑むCTOがデザインを学ぶ理由 ーーCTO 大庭さん