「『プロダクトエンジニア』としてのキャリアを体現するために」AI時代を見据え、組織づくりと人材育成に挑むCTOがデザインを学ぶ理由 ーーCTO 大庭さん
AI技術の進化が社会や産業構造を大きく変えようとする現代において、株式会社 Relic でCTOを務める大庭さんは、敢えてデザインを学ぶことを決めました。その背景にあるのは、エンジニアの新たなキャリアとして「プロダクトエンジニア*」の育成が必要だと考えたからだと言います。
「どうしたらプロダクトエンジニアを育成することができるのか」
「そもそもプロダクトエンジニアとして発揮できる価値は何か」
CTOとして人材育成や組織づくりに取り組むなかでこれらの問いに対して考えるうちに、まずは自分がデザインを学び、プロダクトエンジニアとしてのキャリアを体現しようと考え、MoDの受講を決めた大庭さん。
そんな大庭さんに、MoDでの学びや変化についてインタビューしました。
*プロダクトエンジニア:エンジニアリングスキルだけでなく、デザインへの理解と事業や顧客に関する深い知識を兼ね備え、プロダクトの価値追求を行うエンジニア
参考:アセンド株式会社CTO 丹羽健さんnote「プロダクトエンジニアとは何者か」
大庭 亮 / Oba Ryo
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科に在学中、産業技術総合研究所の技術研修生としてロボット工学の研究やロボット開発に従事した後、DeNAに入社。エンジニアとして主にEC事業領域の新規事業・新規サービスや大手小売業との協働事業であるECサイトやショッピングモールの開発・運用の責任者としてリード。その後、100万人以上のユーザーが利用するスマートフォンアプリの開発や新規事業の開発リーダーを経験。インフラを含め、全体のアーキテクチャの設計〜実装まで、幅広い領域を得意とする。2015年より複数のスタートアップのサービス開発や運用支援、及び技術アドバイザリーに従事した後、2016年、株式会社Relicに参画し、取締役CTOに就任。創業からRelicのテクノロジー領域を牽引しつつ、国内最大規模の新規事業に特化した開発組織を創り上げる。一般社団法人日本CTO協会正会員。MoD二期生。
AI時代におけるエンジニアの新しいキャリア「プロダクトエンジニア」
ーー大庭さんがデザインを学ぼうと思った背景を教えてください
大庭: CTOという立場で人材育成や組織づくりに取り組む上で、AI技術の発展によってエンジニアのキャリアはどう変化していくのかを考えていたことがきっかけです。
この先数年のうちにエンジニアの仕事のあり方は根本から変わる可能性が高いと見ていますが、その一方で、現在活躍している多くのエンジニアが「将来的にどのようなキャリアを築いていくべきか」という問いに対して、明確な答えを見出せずにいるという課題意識を強く持っていました。
私としては将来的なキャリアとしては大きく3つあると考えており、1つは自分で意思決定していくプロダクトマネージャーのポジションです。次にAIエンジニアとして、よりAIを普及させていく側に回るポジションです。そして最後に、テクノロジー、デザイン、ドメイン知識の3つの要素を高いレベルで統合する「プロダクトエンジニア」という新しいポジションの重要性がますます高まると考えています。特に、新規事業の創出と成長に特化した弊社(Relic)のような企業にとって、これらの能力を兼ね備えたプロダクトエンジニアの存在は、競争優位性を確立する上で不可欠だと強く感じています。
しかし、プロダクトエンジニアとして価値を発揮するために、エンジニアが長年培ってきたテクノロジーの専門領域からデザインという新たな領域に足を踏み入れることには、大きな心理的な壁や学習コストが存在すると感じていました。私自身もどのように学んでいくべきか明確な指針がありませんでしたし、世の中全体としてもまだ確立されていない状況だと感じていました。それならまずはエンジニアの自分がデザインを学んでみようと思い、MoDの受講を決めました。MoD代表の田中さんは以前からお付き合いがあり、田中さんがつくる学校なら信頼できるという点も決め手でした。
「百聞は一見に如かず」自らがプロダクトエンジニアとしてのキャリアを体現するために
ーー今後のエンジニアのキャリアを考えるためにも、まずはご自身がデザインを学んでみようと思ってMoDに関心を持たれたのですね。
大庭: はい。結局のところ、デザインの重要性や、それをエンジニアが学ぶことによって何が得られるのかを人に説得力を持って説明するためには、まず私自身がデザインを実際に経験してみる必要があると強く感じました。座学で得た知識だけでは、表層的な理解に留まってしまい、デザインがプロダクトにもたらす本質的な価値を体感することは難しいと思っていました。
ーー実際にMoDを受講したことで、エンジニアがデザインを学ぶ意義を感じることはできましたか?
大庭:一言で表すのは難しいのですが、ユーザーの視点に立ち、問題の本質にとことん向き合おうとする姿勢を学べたのは非常に意義深かったですね。エンジニア出身の私はどうしても「どう解決するか?」に思考の重きを置いてしまいがちなのですが、どんなに解決サイドに力を入れても、問題設定が誤っていれば、根本的な問題解決や価値創出には繋がりません。MoDではリサーチやインタビュー、観察・分析などを通じて、問題設定を磨き込むフェーズがあるため、「本質的な問題は何か?」を問い続けるデザイナーとしての姿勢を、課題やプロジェクトを進めながら学ぶことができます。
ただ、このような意義を、抽象論ではなく、事例に基づいて語ることができると、より説得力が増すと考えています。きっとこれからの自分の仕事が「エンジニアがデザインを学ぶ意義」としての事例になっていくと思っていて、その事例をつくり、言語化し、再現性を持ってその価値を作れるようになってきて、やっとはっきりと意義を人に正しく伝えられるのではないかと考えています。
言語化するためにも、現在、自分でプロダクトを作りきってリリースしてお客様に届けることに取り組んでいます。結局のところデザインが良かったかどうかはお客様に届けないとわからないので、MoDでつくったデザインを実装まで行い、お客様に価値を届けるところまでやろうと思っています。こういうプロセスを再現性を持てるように何度か試してみて、その成果を並べてみたときに初めて「エンジニアがデザインを学ぶ意義」を具体的な事例をベースに、自分の言葉で話せるようになるんじゃないかなと思っています。
MoDの講義内で作ったサービス。現在はユーザーに届けるために実装を進めています。
MoDの講義内で作ったサービスのチラシ。
ーー現時点で仕事における変化はあったのでしょうか?
大庭:短期的な変化としては、これまで以上にユーザーや受け手の視点を強く意識するようになりました。今まではプレゼンするにしてもプロダクトの方向性を考える際にも、機能やコンテンツの内容そのものに目が行きがちでしたが、ユーザーに対する理解を深めることの重要性を感じるようになりましたね。例えば、今まではプロダクト開発におけるディレクションにおいて、ユーザーの解像度が高くなくても、えいやと決めていたところに対して、「本当にこれが本質的な問題解決につながるのだろうか?」と一度立ち止まって考えることが増えました。意思決定するためにも再度ユーザーインタビューに立ち戻るということが増え、これはデザインを学んだからこその変化かなと思っています。
また、課題図書や実習を通じて学んだ「THINK BIGGER」(シーナ・アイエンガー著)という思考法は、具体的かつ実践的で、アイディア出しや問題解決のフレームワークとしてとても有用に思えました。自分自身でも使いやすいように、Figmaでテンプレートを作ってみたので、今後の仕事の中でも活用していきたいと考えています。
THINK BIGGERを参考に実施したアイディア出し
学校形式だからこそ、同期の受講生から刺激を受けて更に頑張れる
ーーMoDの講義の中で印象的なものはありましたか?
全体を通して、手を動かしながら学ぶ点が良かったですね。遠藤さんが最初に説明してくれた以下の図は何度も見返していて、この図の「Media」の部分をいかに設計していくかがデザインだと捉えたのですが、この設計の要素となるFormの部分からを手を動かしながら学べたからこそデザインへの理解が進んだと思います。ここは本を読んで理論だけインプットしても、あまりわからなかったでしょうね。
何度も見返した図
あとは、他の受講生から刺激を受けました。デザイナーではない方もMoDの同期に多くいたのですが、MoDの課題で作るサービスロゴやアプリデザインのブラッシュアップを何度も何度も行い、結果的に非常に高いクオリティのアウトプットを出してくる方がいて。私は最初の方はツールに慣れていないことを言い訳にしていましたが、同じような非デザイナーの方がツールを使いこなして良いアウトプットをしているのに、自分ができてないのはおかしいよねと。もっともっと手を動かして作らなくちゃいけないんだということに気がつき、競争心が芽生えて頑張れたシーンが多々ありましたね。このような経験は、学校という形式だからこそできたものだと思います。同じ熱量を持って並走する仲間がいることは学びを加速させてくれました。
ーーMoDを経て、今後、挑戦していきたいことについて教えてください。
大庭:エンジニアがデザインを学ぶことで、具体的にどのような成果を生み出すことができるのか、自分の経験と今後のアウトプットを具体的な事例として示すこと。そして、その学びのプロセスを再現性のある形で組織に導入していくこと、新しいエンジニアのキャリアステップを提案することが今後の私のミッションの一つだと考えています。
私はもちろん私以外の受講生のみなさんがMoDで得たデザインの学びを最大限に活かして、世の中にインパクトを与える素晴らしいアウトプットを生み出していけると良いですよね。そのアウトプットを見た方々が「何故このようなアウトプットができるのか?」と興味を持ち、その背後にはMoDという学び舎があることに気付くような、そんなサクセスストーリーが生まれると素敵だなと思います。
MoDは、学びに貪欲なすべての方におすすめ
ーー最後に、どのような方にMoDへの参加を特におすすめしたいですか?
大庭: 学ぶことに対して貪欲な人です。本業を持ちながらMoDの密度の高いカリキュラムをこなすことは決して楽ではありませんが、みなさん誰に言われたわけでもなく時間をかけてしっかり課題をやりきっていました。それ以外にも、講義外の課外授業にも集まる人も多かったり、それぞれ勝手に勉強していたり…、そんな方々が集まる場所がMoDなので、学ぶことに貪欲で好奇心が強い方には良い場所だと思います。
また、エンジニアリングのバックグラウンドを持つ人だけでなく、ビジネスサイドの方や、経営者の方々にとっても重要な学びの場になると思います。本質的な課題解決能力と創造性を磨きたいと願うすべての人におすすめです。